漕ぐ見ゆ月人をとこ」という万葉集の歌では桂で造った極も詠まれている。中国では月にある想像上の木を桂とよぶ。
桂丸という船名は漁船を含め五隻(番号除く)あった。
なお、仙崎海上保安部配属の巡視船がつら(五〇三総トン)もいるが、こちらの方は桂川(京都)からの命名のはずだし、大阪高知特急フェリーのニューかつら(六、七七二総トン)は高知の桂浜から採られている。
*かたばみ 漢字では酢漿草と書く。葉は疥癬の薬になる。黄色の小さな花が咲くこの草を船名にしているのは、二、九九三総トンのNK船級船かたばみ丸。沿海の油タンカーで黒油を積む。エム・シー海運所有。
*かとれあ Cattleyaと綴るが、英国の植物収集家Cattleyに由来する熱帯原産のランの一種。
東海汽船の客船には花の名が付けられていることが広く知れ渡っているが、かとれあ丸2(二、五八九総トン)もその一隻。昭和六十三年進水。熱海、伊東、稲取〜大島間五一〜を二時間十分で巡る。
長崎船籍で平水区域の客船がとれあ(三五四総トン)は、英文でCatoreaと書いている。三菱重工業が所有し旅客定員は五百人。
*かめりあ Camellia、もと人名、椿のこと。
国際フェリー航路の博多〜釜山間に旅客船かめりあ(一五、四三九総トン)が平成二年から就航している。本船は、昭和五十年進水で旧船名をさろま(八、八八四総トン)といい東京と釧路を結ぶ旅客フェリーだった。現在の旅客定員は六百二十八人、二等だと片道八千五百円で韓国へいける。カメリアラインが運航。
東海汽船所有の貨客船かめりあ丸(三、七五一総トン)は東京〜大島〜新島〜神津島間一八八キロを千七百六十五人の旅客定員で走る。
ニューかめりあ(六一四総トン)は呉松山フェリーの客船、平成四年の進水。
*きり 桐。川崎船籍に東京湾海事の曳船きり丸(二八七総トン)があった。ひらがな船名なので「霧」とも考えられるが、保安庁の巡視艇以外は霧に由来する船名はほとんどないことから、あえて「桐」ということにした。
海難事故につながる海霧(ガス)は航海者が最も嫌がるし命名者も船名に使わないが、保安庁は巡視艇二三炉型にやまぎり・かわぎり・あそぎり・しまぎり・せとぎり・はやぎり等と以前から天象地象の一つとして「霧」船名を付けている。連合艦隊の駆逐艦に朝霧・天霧・夕霧・狭霧等もあった。海上自衛艦もいくつか霧艦名を継いでいる。
*くすのき 楠。樟とも書く。堅いので船材にも有用な常用高木。
くすのき(一三三総トン)は神戸市消防局の消防艇で、昭和五十七年の進水。速力一六ノットで非常時に備える。通常は六人の乗組員だが、災害時は十九人が乗船して消火にあたる。楠は兵庫、熊本、佐賀の県木である。
北海道留萌港にも楠丸(一六八総トン)という曳船がいた。
*クローバー 植物名は白詰草という和名があるが「四葉のクローバー」などと使うほうが一般的になってしまったヨーロッパ原産のマメ科の草であり、渡来は江戸時代という。この草名を持つのが、商船三井の自動車専用船くろーばーえーす(一七、四一七総トン)である。デッキ数は十二、乗用車を四、五一八台運べる。
*けやき 堅くて狂いが少なく木目が美しいので家具材に重宝なのが欅。宮城、埼玉、福島の県木。
この名を付けているのが釜石船籍の曳船欅丸(一九九総トン)、海洋曳船所有。もう一隻のけやき(四五総トン)は東京船籍で大滝工務店が所有している。
*このはな 漢字では此の花と書き、古今和歌集「なにはづに咲くやこの花ふゆごもり今は春へと咲くやこの花」から梅の異名となっている。また菊や酒の異名でもある。木花開耶姫(このはなのさくやひめ)は安産の神様。
このはな丸(一九八総トン)は阿南船籍。天羽海運所有の貨物船で主に飼料や雑貨を運んでいるが、昭和五十二年就航時は「このはな汽船」(今治)が船主で、関前船籍だった。社名を船名にしたのか、船名を社名にしたのかわからないが、いずれにしろ命名者はなかなか風流なお方であろう。

 

 

 

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